バーチャルオフィスと犯罪収益移転防止法|事業者の5つの義務と利用者への影響

- バーチャルオフィスの契約で、なぜ身分証や事業内容を聞かれるのか知りたい
- 犯罪収益移転防止法とは、どんな法律か知りたい
- 事業者にどんな義務があり、利用者にどう関わるのか知りたい
バーチャルオフィスを契約するとき、運転免許証や登記事項証明書などの提出を求められ、事業内容も聞かれます。これは、犯罪収益移転防止法という法律で、事業者に義務づけられているためです。
この記事では、経済産業省などの公的な情報をもとに、法律の目的、対象になる事業者、事業者の5つの義務、違反したときの措置、利用者に関わることをまとめました。
この記事の結論
バーチャルオフィスは、犯罪収益移転防止法の「郵便物受取サービス業者」にあたり、契約時の本人確認などが義務づけられています。事業者は、確認を行わないと、是正命令などの措置を受けます。
- 法律の目的は、犯罪で得たお金を隠すマネー・ローンダリングを防ぐことです
- 事業者の義務は5つ。取引時確認・確認記録の保存(7年)・取引記録の保存・疑わしい取引の届出・的確に行う措置です
- 確認がきちんとした事業者を選ぶことが、悪用されにくい住所を使うことにつながります
犯罪収益移転防止法とは
犯罪収益移転防止法(正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」)は、犯罪で得たお金を隠したり、通常のお金のように見せかけたりする行為を防ぐための法律です。こうした行為を、マネー・ローンダリング(資金洗浄)といいます。
この法律は、2007年に成立し、2008年3月1日に施行されました(経済産業省)。金融機関や不動産会社、バーチャルオフィスなどの特定事業者に対し、顧客の本人確認や、疑わしい取引の届出などを義務づけています。
住所や電話番号を手軽に借りられる仕組みは、詐欺などの犯罪に悪用されるおそれがあります。経済産業省も、私設私書箱が特殊詐欺に利用されないよう、事業者への説明や注意喚起を行っています。利用者の身元を確認して、悪用を難しくすることが、法律の狙いです。
対象になる事業者と、バーチャルオフィス
法律の対象になる事業者を、特定事業者といいます。警察庁の案内によると、主に次のような事業者です。
- 金融機関、ファイナンスリース、クレジットカード、カジノ
- 不動産業者、宝石・貴金属の取扱事業者
- 弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士
- 電話受付代行業者、電話転送サービス事業者
- 郵便物受取サービス業者(バーチャルオフィス、私設私書箱など)
郵便物受取サービス業者とは
経済産業省のQ&Aでは、「私設私書箱」「バーチャルオフィス」「レンタルオフィス」「海外転送サービス」「電話秘書代行」など、名称を問わず、次の3つをすべて満たすサービスを行う事業者を指します。
- 自己の居所や会社の事務所の所在地を、顧客が郵便物の受取場所として利用することを許諾している
- 顧客に代わって、顧客宛ての郵便物を受け取っている
- 受け取った郵便物を、顧客に引き渡している
郵便物受取サービス業を始めるのに、国の許可や登録、届出は必要ありません。ただし、事業を行うときは、法律にもとづく5つの義務がかかります。
出典 経済産業省|郵便物受取サービス業/私設私書箱業 事業者の義務や、Q&A(令和8年5月)が掲載されています。 出典 警察庁|犯罪収益移転防止法(JAFIC)事業者の5つの義務
取引時確認
郵便物受取サービスの契約を結ぶときに、本人や取引の目的などを確認する義務です。通常の取引では、次の事項を確認します。
- 本人特定事項(個人は氏名・住居・生年月日、法人は名称・本店の所在地)
- 取引を行う目的
- 職業(個人)、事業の内容と実質的支配者(法人)
- 法人や代理人の場合は、契約を行う取引担当者の本人特定事項
確認は、原則として、契約を結ぶときに行います。なりすましの疑いがある取引などのハイリスク取引では、別の本人確認書類による確認など、さらに厳しい確認が求められます。
確認記録の作成・保存
取引時確認を行ったら、その記録を作成し、契約が終了した日から7年間保存する義務があります。本人確認書類の写しの提出があれば、写しも添付して保存します。
取引記録の作成・保存
現金(1万円を超える)を内容とする郵便物を扱う場合は、取引記録を作成する義務があり、取引の日から7年間保存します。それ以外の取引には作成義務はありませんが、業務のために、すべての取引を記録することが望ましいとされています。
疑わしい取引の届出
顧客との過去の取引や、確認時の情報などと比べて、犯罪による収益の疑いがあると判断したときは、速やかに、経済産業大臣に届け出る義務があります。契約に至らない場合でも、申込者に不審な点があれば、届出が必要です。
届出をしたことや、しようとしていることを、顧客やその関係者に漏らしてはいけません。
的確に行うための措置
取引時確認を的確に行うため、確認事項の情報を最新に保つ措置(変更があったら届け出る旨を約款に定めるなど)を講じる義務があります。また、次のような体制づくりに努めることが求められます。
- 従業員への教育訓練、社内の規程・マニュアルの作成
- 業務を統括管理する責任者の選任
- 自らの取引のリスク評価の作成と見直し
- リスクの高い取引での、責任者の承認
- 確認記録・取引記録の、継続的な精査
本人確認の概要と、2027年4月の変更
本人確認の方法は、個人か法人か、対面か非対面(メール、郵送など)かで異なります。主な流れは、次のとおりです。
- 個人・対面:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなどの原本の提示を受ける
- 個人・非対面:本人確認書類の原本やICチップ情報の送信を受け、書類に記載された住所に、転送不要の書留などを送る。専用ソフトで顔写真と書類を撮影して送る方法もある
- 法人:登記事項証明書(確認日前6か月以内)などで、法人の名称と所在地を確認し、取引担当者の本人確認も行う。非対面では、法人の所在地にも転送不要の郵便物を送る
犯罪収益移転防止法の施行規則が改正され、2027年4月1日から、非対面の本人確認で、書類の外観画像と自撮り写真を照合する方式などが廃止され、ICチップの読み取りが中心になります(TMI総合法律事務所の解説)。実際の手続きは、事業者の案内に従ってください。
違反したときの措置
経済産業省は、法律の施行に必要な範囲で、事業者に報告を求め、事務所に立入検査を行えます。検査の結果、義務に違反していると認めるときは、是正命令を出すことができます。
- 報告をしない・虚偽の報告・立入検査の拒否:1年以下の拘禁刑、または300万円以下の罰金(併科あり)
- 是正命令に違反した場合:2年以下の拘禁刑、または300万円以下の罰金(併科あり)
実際に、経済産業省は、私設私書箱の事業者が、取引時確認や確認記録の作成などの義務に違反したとして、是正命令を出しています(2025年6月・2026年4月に発表)。
出典 経済産業省|郵便物受取サービス業者に対する行政処分を実施しました(2026年4月3日)利用者に関わること
- 本人確認書類の提出:個人は本人確認書類、法人は登記事項証明書などが必要になる
- 目的や事業内容を聞かれる:「取引を行う目的」や、職業・事業の内容の確認は、法律で義務づけられている
- 書類は、契約が終わってから7年保存される:個人情報の管理体制も、事業者選びのポイント
- 断られた理由を、教えてもらえないことがある:疑わしい取引の届出について、事業者は本人に伝えてはいけないため
編集部審査で質問されると、戸惑うかもしれません。ただ、確認をきちんと行う事業者ほど、悪用されにくい住所になります。審査のない事業者は、避けたほうが安全です。
よくある質問
バーチャルオフィスの契約で、なぜ身分証の提出が必要ですか?
犯罪収益移転防止法で、郵便物受取サービス業者に、契約時の本人確認(取引時確認)が義務づけられているためです。住所や電話番号が、詐欺などの犯罪に悪用されることを防ぐ目的があります。
本人確認をしない事業者は、違法ですか?
郵便物受取サービス業者は、契約時の本人確認が義務づけられています。行っていない場合は、法律違反で、経済産業省の是正命令などの対象になります。悪用のおそれもあるため、避けたほうが安全です。
提出した書類は、どのくらい保存されますか?
確認記録は、契約が終了した日から7年間保存されます。個人情報の管理体制は、事業者ごとに異なるため、プライバシーポリシーなどを確認しましょう。
審査に落ちた理由を、教えてもらえますか?
教えてもらえないことがあります。疑わしい取引の届出をしたことや、しようとしていることを、事業者は本人に伝えてはならないと定められているためです。書類の不備などは、確認できる場合もあります。
まとめ:法律の目的を知れば、審査の意味がわかる
バーチャルオフィスの契約で、書類の提出や質問があるのは、犯罪収益移転防止法にもとづく、事業者の義務です。事業者には5つの義務があり、違反すれば、是正命令などの措置を受けます。利用者にとっても、確認のしっかりした事業者を選ぶことが、安心して住所を使うことにつながります。
- バーチャルオフィスは「郵便物受取サービス業者」にあたり、犯罪収益移転防止法の対象
- 事業者の義務は5つ。取引時確認、確認記録(7年保存)、取引記録、疑わしい取引の届出、的確に行う措置
- 審査が厳しい事業者ほど安全。審査のない事業者は避ける
